20Jan

「信用しています」「信頼しています」。
私たちは日常の中で、何気なくこの二つの言葉を使っています。ほとんど同じ意味として扱われることも多く、深く区別されることはあまりありません。しかし、この二つは本質的にはまったく別の概念であり、その違いをどう捉えるかによって、人間関係やチームワークのあり方は大きく変わっていくように思います。
これは保育の現場に限った話ではなく、あらゆる組織、あらゆる関係性に共通するテーマです。本稿では、「信用」と「信頼」の違いを軸にしながら、人と人が長く良い関係を築いていくために何が大切なのかを考えてみたいと思います。
信用とは「過去」に基づく評価である
まず、「信用」について整理してみます。
信用とは、過去の行為や実績に基づいて成り立つものです。約束を守ってきたか、言ったことを実行してきたか、期待された役割を果たしてきたか。そうした積み重ねによって、「この人は大丈夫だ」「この人なら任せられる」と判断される状態が信用です。
信用には、ある意味で条件があります。
これだけやってくれたから信用できる、これだけ成果を出しているから任せられる。そこには、目に見える行為や結果が前提として存在します。そして多くの場合、信用の裏側には「見返り」があります。仕事を任せる代わりに成果を期待する、約束を守る代わりに評価される。これは決して悪いことではなく、組織や社会が成り立つためには不可欠な仕組みです。
保育の現場でも、信用は非常に重要です。書類を期限通りに出す、こどもの安全を守る、保護者対応を適切に行う。こうした日々の行為の積み重ねが、「この先生は安心だ」という信用につながっていきます。信用がなければ、仕事は回りませんし、チームも成り立ちません。
信頼とは「未来」に向けた関係性である
一方で、「信頼」はまったく違う性質を持っています。
信頼とは、過去の実績だけで判断するものではなく、「この人自身を信じる」という姿勢に近いものです。まだ結果が出ていなくても、失敗するかもしれなくても、「それでもこの人なら大丈夫だ」と未来に向けて委ねる感覚です。
信頼には、条件がほとんどありません。
そして、原則として見返りを求めません。うまくいくかどうか分からない、それでも任せる。結果が出るか分からない、それでも待つ。この「不確かさ」を引き受ける行為こそが、信頼だと言えます。
保育の現場で言えば、新人職員に仕事を任せる場面が分かりやすいかもしれません。経験も実績も十分とは言えない中で、それでも一つの役割を託す。「失敗するかもしれないけれど、この人なら成長できる」と信じる。これは信用ではなく、信頼の行為です。
信用は管理を生み、信頼は関係性を育てる
信用が中心になる組織では、評価や管理が強くなります。
誰が何をやったのか、どこまでできたのか、約束通りだったのか。これらを可視化し、管理することで秩序を保とうとします。これは合理的であり、多くの場面で必要です。
一方で、信頼が中心にある関係性では、「管理しすぎない」姿勢が生まれます。細かくチェックしなくても任せる、逐一報告を求めなくても待つ。そこには、「この人なら大丈夫だ」という前提があります。
チームワークという観点で見ると、この違いは非常に大きいものです。信用だけでつながったチームは、ルールがなければ動きませんが、信頼があるチームは、想定外の状況でも自発的に動くことができます。
保育の現場は、常に想定外の連続です。こどもの体調、家庭状況、突発的な出来事。マニュアルや管理だけでは対応しきれない場面が日常的に起こります。だからこそ、信用だけでなく、信頼に基づいた関係性が不可欠になります。
信頼は「与えるもの」であり、要求するものではない
ここで一つ、誤解されやすい点があります。
信頼は「得るもの」だと考えられがちですが、実際には「与えるもの」に近い性質を持っています。「信頼してほしい」と要求することはできますが、それで信頼が生まれるわけではありません。信頼は、相手に委ねる行為を通じて初めて形になります。
この点で、信頼は非常に勇気のいる行為です。裏切られるかもしれない、期待に応えてもらえないかもしれない。それでも差し出す。それが信頼です。
保育の現場で、職員が萎縮せずに意見を言えたり、挑戦できたりする園は、多くの場合、「失敗しても見捨てられない」という信頼の土台があります。
逆に、信用だけが強調される現場では、「評価を落としたくない」「失敗したら終わりだ」という空気が生まれやすくなります。その結果、無難な選択ばかりが増え、チームとしての成長が止まってしまうこともあります。
信用と信頼は対立するものではない
ここまで読むと、「信頼のほうが大事で、信用は二の次なのか」と感じるかもしれません。しかし、決してそうではありません。信用と信頼は、どちらか一方が正しいという関係ではなく、役割が違うものです。
信用は、組織を安定させます。
信頼は、組織を前に進めます。
信用がなければ、最低限の安全や秩序が保てません。
信頼がなければ、新しい挑戦や成長は生まれません。
保育の現場でも、まずは基本的な業務をきちんと行うことで信用を積み上げることが大切です。その上で、次の一歩を踏み出すためには、信頼という土台が必要になります。この順序を間違えると、「任せたのに裏切られた」「信じたのに期待外れだった」といった感情的な衝突が起こりやすくなります。
信用から信頼へ、関係性を一段深めるということ
人間関係やチームワークにおいて、本当に難しいのは、信用から信頼へと一段階進むことです。過去の実績だけを見て評価する関係は、ある意味で安全です。しかし、そこに未来への委ねがなければ、関係性は深まりません。
保育の現場で、こどもを信頼するとはどういうことか。
それは、「この子はまだできない」と決めつけるのではなく、「できる可能性がある」と未来に目を向けることです。同じように、職員を信頼するとは、「今の能力」だけで判断するのではなく、「これからどう成長するか」に期待することです。
信用は過去を見る視点、信頼は未来を見る視点。
この二つを意識的に使い分けることで、人との関係性はより健やかなものになっていくのではないでしょうか。
信頼が根づくところに、強いチームが生まれる
最後に強調しておきたいのは、信頼は空気として職場に広がるという点です。誰か一人が信頼されているだけでは足りません。「この場では、失敗しても立ち上がれる」「このチームなら、任せ合える」。そうした感覚が共有されているかどうかが、チームワークの質を決めます。
保育に限らず、人が集まって働く以上、意見の違いや摩擦は避けられません。その中で、信用だけに頼る関係は脆くなりがちです。一方、信頼がある関係は、多少のズレや衝突があっても、修復する力を持っています。
信用は、積み上げるもの。
信頼は、差し出すもの。
この違いを意識することが、保育現場だけでなく、あらゆる人間関係やチームワークを、もう一段成熟させる鍵になるのではないかと私は思っています。



